地域の未来を変える!起業で地方を活性化する方法と課題(起業③)

産業

地域経済の活性化には、新しい価値を生む起業が不可欠です。都市部ではスタートアップが集まり活発な経済活動が見られる一方、地方では人口減少や産業構造の変化により雇用機会の減少が深刻です。しかし、地域資源を活用したビジネスや行政の支援策を組み合わせることで、地方においても持続可能な成長モデルを構築できます。本記事では、福岡市や徳島県神山町など国内外の成功事例を紹介しつつ、地域起業の課題と解決策を解説します。地方創生を目指す起業家や自治体担当者の皆様に役立つ情報をお届けします。

>本記事は「起業と地域」三部作となっております。併せて下記もお読みください。

1.    はじめに:地域経済活性化における起業の役割

地域経済の活性化において、起業は重要な要素となっています。都市部では多様な産業が集積し経済が活性化している一方で、地方都市では少子高齢化や若年層の流出による人口減少、産業構造の変化など、多くの地域課題を抱えています。そのため、地域において新たな価値を生み出す起業は、経済再生の鍵として注目されています。

地域における起業は、地域資源の有効活用を通じて地元産業の強化や新規産業の創出を促進します。例えば、農業、漁業、観光資源など地域固有の資産を活かした事業は、都市部では展開できない独自のビジネスモデルを生み出すことができます。特に、デジタル技術の普及によって、オンライン販売リモートワークなどの新しい働き方や事業展開が地方でも容易になりつつあります。

1)    なぜ地域において起業が必要なのか?

地域経済において起業が必要とされる理由は、経済活力の創出雇用機会の拡大にあります。新しい企業が生まれることで、地域内の資金循環が活発化し、地域住民の生活が安定しやすくなります。特に、人口流出が顕著な地域では、若年層の雇用機会が限られているため、起業によって新しい働き口を提供することが急務となっています。

さらに、起業は地域に新しいビジネスモデルを導入し、地域の多様性や競争力を高める効果があります。これにより、従来の産業に依存していた地域経済が多角化し、外部の経済変動に対する耐性が強化されます。具体例としては、地方の空き家を活用したカフェやコワーキングスペース、地域特産品を活かしたクラフトビジネスなどがあります。

2)    地域経済と雇用創出への寄与

地域で起業が増えると、新たな雇用が生まれるため、人口流出の抑制に効果があります。特に、地域に根ざしたスタートアップや中小企業は、大手企業に比べて柔軟な雇用形態を提供できる点が強みです。これにより、地域内の多様な人材が活躍する場が広がり、若年層だけでなく、子育て世代や高齢者も参加できる持続可能な経済圏を形成できます。

また、起業家は雇用機会を生み出すだけでなく、外部からの投資を引き込む役割も担います。特に、クラウドファンディングや補助金制度などを活用することで、地域内外からの資金を呼び込み、地域経済全体の活性化につなげることが可能です。

3)地域イノベーションにおけるスタートアップの役割

地域経済の活性化においても、スタートアップは重要な役割を担っています。特に、地方都市では若者の流出や産業の衰退が課題となっていますが、スタートアップエコシステムの形成は、こうした課題の解決策となり得ます。

スタートアップは地域の特色や資源を活かし、独自のビジネスを生み出すことで、地域のブランド価値向上にもつながります。

4)    都市部と地方における起業環境の違い

冨山和彦(2024)によると、地域経済にはG(グローバル)型経済圏L(ローカル)型経済圏の2つのタイプがあるとしています。そこで起業環境も都市部と地方では大きな違いがあります。

都市部は資金調達のしやすさや人材の確保、インフラの整備が進んでいるため、スタートアップエコシステムが確立されている傾向にあります。大都市には多くのベンチャーキャピタルや支援機関が集中し、起業イベントやネットワーキングの機会も豊富です。

一方で、地方では都市部と比較して市場規模が小さく、資金や人材の確保が難しいという課題があります。しかし、地方には都市部にない強みもあります。例えば、土地や施設の賃料が安価であるため、初期投資を抑えて起業できる点は大きなメリットです。また、地域特有のニーズを満たす事業は競合が少ないため、成功しやすい市場環境を作れる場合があります。

さらに、行政による地域起業支援の強化も地方起業の追い風となっています。地方自治体が主催する起業支援プログラムや、特産品のブランド化を支援する施策は、地域資源を活用した起業を後押ししています。

すべてのスタートアップが、ハイテク分野でグローバル市場に打って出ることを目標とする必要はありません。国内市場で地方の課題解決を図ることで価値創造するスタートアップであってもいいです。

つまり、スタートアップにおいてユニコーン企業になるというホームランを狙うより、ローカルで確実にヒットを重ねていく戦略も十分に地方創生につながります。

2.    地域における起業の現状と課題

地域における起業活動は、多様な分野で進展を見せていますが、課題も少なくありません。本章では、地域における起業の現状を開業率や廃業率の動向を通して確認し、具体的な事例を紹介するとともに、課題の分析を行います。

1) 地域での起業活動の現状

開業率と廃業率の推移
日本全体の開業率は、一時廃業率を下回った時期もありましたが、過去数年間は廃業率を上回っています。(図1)。

図1 開業率・廃業率の推移

資料:厚生労働省「雇用保険事業年報」

都道府県別の開業率を見ると、最も高いのが沖縄県、次いで福岡県であり、他に首都圏、関西圏、中京圏などの大都市圏の都府県の率が高くなっています。

廃業率は、最も高いのが福島県、次いで愛知県、大分県となっています。宮城県を除いた東北5県は開業率より廃業率が高い状況です(図2)。

図2 都道府県別開廃業率(2021年度)

資料:厚生労働省「雇用保険事業年報」のデータを基に中小企業庁が算出

2) 地方起業の主な課題

若者の流出
地方では、高校卒業後や大学進学時に若者が都市部に流出し、その多くが地元に戻らない傾向があります。この若者の流出は、地域経済にとって大きな損失であり、新たなビジネスやイノベーションを生む人材不足の一因となっています。特に、デジタル技術を駆使したビジネスを推進できるIT人材の不足は、地域起業の成長を阻害しています。

人材不足
若者だけでなく、中高年層の労働人口も減少傾向にあります。さらに、地方では高度なスキルを持つ人材を採用することが難しく、企業内での教育や人材育成の負担が大きくなっています。これにより、企業の成長を支えるリーダーや専門家が不足し、事業拡大が難しくなる事例が多々見受けられます。

資金調達の難しさ
地方では都市部に比べてベンチャーキャピタルやエンジェル投資家の存在が少なく、銀行からの融資も厳格な審査を求められるため、初期資金の確保が困難です。さらに、クラウドファンディングなど新しい資金調達方法の活用も、知識不足や人脈不足により活用が進んでいない場合があります。

支援機関不足・情報不足
都市部ではアクセラレーターやインキュベーターといった支援機関が豊富に存在し、起業家同士が情報共有できるイベントも頻繁に開催されています。しかし、地方ではこうした支援企業・機関の数が少なく、相談できる窓口が限られています。情報不足が要因となり、適切なアドバイスや資金支援制度を見逃してしまうケースもあります。

3.    地域における起業促進戦略

1)    地域特有の産業資源(農産物、観光資源など)

地域には農産物、観光地、伝統工芸、自然環境など、独自の資産があります。これらの地域資源を効果的に活用することで、差別化された事業を展開することが可能です。例えば、北海道では酪農資源を活かした乳製品ブランドが全国展開を成功させており、愛媛県では柑橘類を活用した食品や化粧品の生産が地域ブランド価値を高めています。

ローカルブランド確立方法

ローカルブランドの確立には、品質管理の徹底とともに、地域ならではのストーリーを発信することが効果的です。特産品に新たな付加価値を加えることで、消費者に対して「地域性」と「独自性」を強調することができます。加えて、SNSや動画を活用したプロモーションもブランド認知度を向上させる手段として有効です。

2) 産学官連携の強化

地域大学・研究機関の活用
大学や研究機関は、地域の技術革新を支える重要な役割を担っています。特に、地方の大学は地域産業と連携し、技術開発や新規事業支援の場として機能することが求められています。例えば、愛媛大学では2020年に「えひめ学生起業塾」を立ち上げ、愛媛県内の国公私立大学又は大学院に在籍中の学生を対象に塾生を受け入れて、学生発ベンチャー企業を生み出しています。

行政・NPO・民間の役割分担
行政は補助金制度の提供や政策支援を行い、起業家にとっての基盤を整備する役割があります。一方、NPOや民間企業は、具体的な事業運営支援起業家向けセミナーの開催など、現場に密接した支援を提供します。産学官連携を強化することで、各組織が持つリソースを有効活用し、持続可能な支援体制が構築されます。

3) 外部ネットワークの活用

他地域や海外スタートアップとの交流事例
地域に閉じこもるのではなく、他地域や海外のスタートアップとの交流を積極的に行うことで、新しい視点やノウハウを取り入れることができます。例えば、福岡市ではアジア地域のスタートアップ支援プログラムを通じて、海外の起業家と地元企業のネットワークを築き、新たな市場機会を創出しています。こうした取り組みは、地域起業家のスキル向上と市場拡大に寄与します。

外部起業家の誘致
外部から企業や優秀な起業家を誘致することで、地域の産業基盤を強化し、地元の人材育成や雇用創出にもつなげることができます。たとえば、京都府のZET valleyプロジェクトでは、外部起業家を呼び込み、ゼロカーボンものづくりによるゼロカーボンまちづくりを推進しています。これにより、外部の知見を地域内に持ち込むことでオープンイノベーションの環境が整えられます。

4.    成功する地域起業の条件

地域起業を成功させるためには、地域特有の課題や特性を踏まえた戦略が必要です。ここでは、地域起業が成功するための7つの条件を紹介し、それぞれを詳しく説明します。

1)    需要に即したビジネスモデル設計

地域起業においては、市場の需要を正確に把握し、それに応じたビジネスモデルを構築することが不可欠です。特に、地方では市場規模が限られているため、地元の消費者ニーズに適した商品・サービスを提供することが重要です。ビジネスモデルキャンバスなどのフレームワークを活用し、提供価値や顧客ターゲットを具体的に明確化することで、無駄のない事業運営が可能となります。

2)    地元市場のニーズに応じたアプローチ

地域ごとに異なる市場ニーズを理解し、適切なアプローチを行うことが成功の鍵です。例えば、高齢化が進む地域では、移動販売サービスや健康支援ビジネスがニーズに合致する場合があります。一方、観光資源が豊富な地域では、地域独自の体験型観光プログラムの開発が効果的です。地元住民と積極的に対話を行い、ニーズを定期的に見直すことが重要です。

3)    資金調達手段の多様化

資金調達は、地域起業において大きな課題の一つです。従来の金融機関からの融資だけでなく、クラウドファンディングエンジェル投資自治体の補助金・助成金など、多様な資金調達手段を組み合わせることで、資金繰りのリスクを軽減できます。特に、地域に根ざしたプロジェクトは共感を得やすく、クラウドファンディングの成功事例も増えています。

4)    市場規模の見極め

地域市場は都市部と比べて規模が小さいため、無理のない成長計画を立てる必要があります。市場規模を正確に見極め、過度な投資を避けつつ、持続的な成長が見込める収益モデルを設計することが重要です。特定のニッチ市場を狙い、少人数でも運営できるビジネスモデルは地方に適しています。

5)    外部ネットワークの活用

外部のネットワークを積極的に活用することで、地域内では得られないノウハウやリソースを獲得することができます。他地域の企業や大学、NPOと連携することで、技術支援やマーケティング支援を受ける機会が増えます。さらに、全国的なイベントやスタートアップ支援プログラムへの参加を通じて、外部の投資家やパートナーとつながりを持つことも有効です。

6)    人材確保と育成

地域での起業成功には、優秀な人材の確保と育成が不可欠です。地方では、特にITや経営スキルを持つ人材が不足しがちですが、Uターン・Iターン人材を積極的に受け入れる施策や、地元人材のスキルアップを図る研修プログラムの導入が重要です。加えて、柔軟な働き方の導入や福利厚生の充実などを行い、働きやすい環境を整えることで人材の定着率を高めることができます。

7)    デジタル技術の活用

現代の起業環境において、デジタル技術の活用は不可欠です。オンライン販売やデジタルマーケティングを導入することで、地域内外の顧客を獲得しやすくなります。また、クラウドサービスやリモートワークシステムの活用により、業務効率化を図り、少人数でも事業を運営しやすくなります。特に、小規模事業者にとっては、デジタル技術を活用した効率的なオペレーションは競争力強化に直結します。

5.    国内の成功事例

地域経済の活性化と起業の促進に成功した国内の事例は、多様な戦略や政策の効果を示しています。ここでは、国内の代表的な成功事例を紹介し、それぞれの特徴と成果を詳しく解説します。

1)    東京都渋谷区:都市型スタートアップ支援モデル

渋谷区は、かつて「ビットバレー」として呼ばれたITスタートアップの集積地です。渋谷にはGoogleジャパンなど多くのIT企業やクリエイティブ産業が集まり、スタートアップ企業にとって魅力的な拠点となっています。行政は、企業や大学との連携を強化し、ベンチャーキャピタルやアクセラレータープログラムと協力した支援を提供しています。また、再開発プロジェクトにより、スタートアップ向けのオフィスビルや交流スペースが整備され、企業間のコラボレーションが進んでいます。これにより、渋谷は日本国内だけでなく、アジア全体からも注目を集めるスタートアップハブとしての地位を確立しています。

2)    福岡市:スタートアップ都市構想とグローバル連携

福岡市は「スタートアップ都市」を掲げ、国内外の起業家を積極的に支援する都市政策を推進しています。2014年には「スタートアップビザ」制度を導入し、海外からの起業家誘致を行っています。また、市内にスタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next」を設立し、コワーキングスペースやアクセラレーションプログラムを提供しています。福岡市の強みは、地理的にアジアに近い立地を活かし、韓国やシンガポールなどとの国際連携を強化している点です。その結果、多くのIT系スタートアップが成長し、グローバル市場への進出も実現しています。福岡市の事例は、地元自治体と民間企業、大学が連携して一体的な支援を行うことで、地域経済の成長につなげている成功例です。

3)    徳島県神山町:リモートワーク拠点とIT企業誘致の成功例

徳島県神山町は、過疎化が進む中、IT企業の誘致とリモートワーク拠点の整備によって地域再生に成功しました。神山町は、古民家を改修したコワーキングスペースや住居を整備し、地方移住を希望するクリエイターやITエンジニアを積極的に受け入れています。地元のNPO法人「グリーンバレー」が中心となり、地域全体で移住者支援やネットワーク構築を進めてきたことが成功の要因です。この取り組みにより、神山町は「サテライトオフィス」のモデルケースとして全国的に注目され、地域活性化の象徴となっています。また、2023年に設立された神山まるごと高等専門学校では、起業家精神を養う教育を行っており、卒業生の4割が実際の起業家となることを目標として掲げています。

6.    地域起業の留意点

地域起業を成功させるためには、地域特有の課題や特性を踏まえた慎重な計画が必要です。地域の魅力を活かした起業は地域経済を活性化させますが、長期的な成功を目指すためには、いくつかの重要なポイントに注意する必要があります。

1)    マイクロビジネス志向

地域起業では、家族など少人数で運営できる小規模なビジネス、いわゆるマイクロビジネスが一般的です。飲食業や小売業、観光関連ビジネスなどは比較的始めやすい一方で、規模が小さいため収益が限られやすいという側面があります。パン屋や美容院などの地域密着型ビジネスは起業がしやすい反面、事業の拡大が難しいケースもあります。

2)    起業の難易度と生産性の低さ

地域では、飲食店や雑貨店など、比較的参入しやすい業種が選ばれやすい傾向があります。しかし、これらの業種は生産性が低く、利益率も高くないため、地域全体の雇用が生産性の低い仕事に固定されるリスクがあります。持続的な成長を目指すためには、ITサービスや製造業、地域の特性を活かした高付加価値型ビジネスなど、より生産性の高い産業へのシフトや、多様な業種を取り込む工夫が必要です。

3)    成長性と地域性の二律背反

多くの地域起業は、地域の特色に特化することで成功しますが、事業をスケールアップさせ市場拡大を図る段階で、大都市への進出が必要になるケースがあります。特に、顧客層を全国規模に広げるためには、都市部の拠点やネットワークの構築が不可欠です。このように、地域性を維持したいという思いと、事業成長を優先する経営判断の間で葛藤が生まれることがあります。そのため、成長戦略においては、地域に根ざしつつもオンライン展開や提携企業の活用など、地域外市場へのアクセスを確保する方法を模索することが重要です。

4)    持続可能性の確保

一時的なブームに頼ったビジネスは、流行が去ると共に衰退してしまうリスクがあります。そのため、長期的な視点での事業計画が不可欠です。市場の変化や顧客ニーズの変動に柔軟に対応できる仕組みを構築し、定期的な市場調査や事業内容の見直しを行うことで、持続可能なビジネスモデルを確立する必要があります。また、複数の収益源を確保することで、特定の事業や季節に依存しない安定的な運営を目指すことが求められます。

5)    人口減少の中での困難性

地方では、少子高齢化や若年層の都市部流出が進んでおり、労働人口の不足が深刻です。そのため、スタートアップや新規事業を立ち上げる際に、起業家事態とともに必要なスキルを持つ人材を確保しにくい状況があります。

また、限られた人材は既存の産業や公共サービスに吸収されやすく、新規参入者が十分なサポートを得るのは難しい場合があります。さらに、地方特有のネットワークに依存する文化が強いため、外部からの人材誘致や協力がスムーズに進まないことも課題です。このため、人材不足の克服が起業促進の鍵となります。

7.    まとめと提言

地域経済の活性化を実現するためには、地域に根ざした起業活動を持続的に支援するエコシステムの構築が重要です。本章では、地域エコシステムの強化、心理的安全な居場所の確保、支援体制の課題解決について具体的な提言を行います。

1)    地域エコシステム強化の重要性

地域エコシステムとは、起業家を中心に行政、大学、金融機関、民間企業、地域住民などが連携し、互いに支え合う仕組みを指します。このエコシステムが機能することで、資金、情報、人材の循環が生まれ、起業がより円滑に行われるようになります。特に、地方では都市部に比べて情報不足や資金調達の課題があるため、エコシステムの強化は欠かせません。

成功している地域では、自治体が主導する起業支援プログラムや、大学が提供する技術支援や共同研究の場、地元企業が担う育成プログラムなど、多様な連携が見られます。また、地域内外のネットワークを活用し、起業家が最新のトレンドやノウハウを得られる環境を整備することも重要です。これにより、起業活動が地域の枠を超えた成長を遂げる機会が生まれます。

2)    心理的安全場所(居場所)の確保

起業には多くの挑戦が伴い、リスクが高い活動です。特に地域での起業は孤立感を伴う場合があります。そのため、心理的安全性を確保できる居場所の整備が必要です。地域内にコワーキングスペースやスタートアップ向けの交流スペースを設置することで、起業家同士が情報を共有し、助け合える環境が生まれます。また、定期的なイベントや勉強会の開催により、横のつながりを強化し、心理的な安心感を高める取り組みも有効です。

さらに、支援機関のスタッフやメンターが相談しやすい雰囲気を醸成することで、起業家が課題を抱え込まずに気軽にアドバイスを求めることができるようになります。心理的な居場所は、事業推進だけでなく、起業家の成長や精神的な安定を支える基盤となります。

3)    地域起業支援における課題解決の方向性

地域起業を支援するための課題には、資金不足、人材不足、情報不足といった共通の問題があります。これらの課題を解決するためには、次のようなアプローチが効果的です。

  • 資金不足の解決
    地域金融機関やベンチャーキャピタルとの連携を深め、資金調達の選択肢を増やすとともに、クラウドファンディングなど地域特化型の資金調達プラットフォームを推進します。加えて、自治体の補助金や助成金の透明化・効率化も必要です。
  • 人材不足の解消
    地域内外から優秀な人材を呼び込むためのUターン・Iターン支援制度を充実させるほか、地元の若年層に向けた起業教育プログラムを導入します。さらに、地域外の専門家との交流を通じて、地域内のスキルアップを図ることも効果的です。
  • 情報不足の解決
    起業家向けの情報提供プラットフォームを整備し、最新の情報を一元的に取得できる仕組みを構築します。また、地域ごとの成功事例を共有し、他の起業家が学びを得られる機会を提供することで、成功体験が広がり、地域全体の起業熱が高まります。

まとめ

地域経済の活性化には、地域エコシステムの強化、心理的安全な居場所の確保、支援体制の課題解決が不可欠です。自治体や地域組織、大学、民間企業が一体となり、起業家を支える環境を整備することで、地域経済は持続可能な成長を遂げることができます。多様な人材が活躍し、地域から新しい価値が創出される社会を目指し、連携を深めることが今後の重要な課題です。

参考文献

篠原匡(2023)『神山 地域再生の教科書』ダイヤモンド社

冨山和彦(2024)『ホワイトカラー消滅』NHK出版

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