観光によるまちづくり!成功するまちづくりの事例とポイントを紹介(観光②)

産業

観光とまちづくりは、どのように融合し、地域の魅力を引き出すのでしょうか?歴史的街並みの保存や地域資源の活用は、観光振興だけでなく、住民の生活向上にも寄与します。本稿では、観光を通じた地域活性化の重要性と、その背景にある歴史的な発展の流れについて詳しく解説します。

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1.観光によるまちづくりの意義と基本概念

1) まちづくりと観光の融合

「観光によるまちづくり」とは何か?

観光によるまちづくりとは、地域の自然や歴史、文化などの資源を活用し、観光を通じて地域の活性化を図る取り組みです。単なる観光客誘致ではなく、地域住民の暮らしと調和しながら、持続可能な発展を目指すことが求められます。観光産業を活かした地域経済の発展だけでなく、文化継承や環境保全の視点も重要になります。

日本国内外の観光まちづくりの発展経緯

観光とまちづくりの融合は、国内外で様々な形で発展してきました。ヨーロッパでは、歴史的な街並みを保存しながら観光資源として活用する都市が多く見られます。例えば、フランスのモン・サン=ミシェルやイタリアのヴェネツィアは、地域の魅力を最大限に活かし、世界的な観光地となっています。

日本でも、江戸時代の伊勢参りや四国遍路など、地域の宗教文化と観光が結びついていました。近代では温泉地やリゾート地の開発が進み、バブル崩壊後には観光を活用した地域活性化が各地で模索されました。最近では、愛媛県大洲市のように、歴史的な町並みを活かした分散型ホテルの開業など、新たな観光戦略が注目されています。

「観光」を通じた地域再生の背景

少子高齢化や人口減少が進む中で、観光は地域の経済活性化に不可欠な要素となっています。観光客が地域を訪れることで、宿泊業や飲食業、交通産業などが潤い、新たな雇用が生まれます。また、地域の文化や伝統を観光資源として活用することで、地域アイデンティティの維持や住民の誇りにもつながります。

近年では、エコツーリズムアグリツーリズムなど、地域の特性を活かした持続可能な観光が求められています。観光を通じたまちづくりは、経済効果だけでなく、地域文化の保護や住民との共生を重視することが重要です。

2)観光の役割と地域社会の変化

ジョン・アーリー『観光のまなざし』

イギリスの社会学者ジョン・アーリーは『観光のまなざし』において、観光とは単に旅行をすることではなく、社会や文化を捉える「まなざし」によって形成されると論じました。観光客は非日常的な体験を求め、訪れた土地の景観や文化、歴史に価値を見出します。そのため、地域は観光資源を「見せる」ことを意識し、魅力的なストーリーや風景を提供することが求められます。

観光は地域の歴史や文化を再評価し、地域のブランディングに寄与します。例えば、歴史的な建物や伝統工芸が観光資源として活用されることで、地域の独自性が強調され、訪問者の関心を引きつけます。

観光による地域アイデンティティの再評価

観光は地域アイデンティティの再発見と再評価を促します。観光客の視点を通じて、地元の人々が自らの文化や歴史の価値に気づき、それを再認識する機会を得るからです。例えば、京都の町家保存や金沢の茶屋文化の継承は、観光をきっかけに地域住民の意識が高まり、地域資源が保全される動きにつながりました。

また、観光による経済的な波及効果だけでなく、地域の誇りや文化の継承にもつながるため、持続可能な観光まちづくりが重要です。観光を通じて地域の価値を高めることは、住民にとっても大きな意味を持つのです。

3)DMOの取り組み:観光地域づくりの新たな視点

日本では2015年から、地域の観光資源を最大限に活用し、「稼ぐ力」を引き出すとともに、地域住民の誇りや愛着を醸成することを目的とした組織としてDMO(Destination Management Organization)が設立されました。従来の観光振興が個別の事業者や行政主導で進められてきたのに対し、DMOは観光地経営の視点を持ち、地域全体を統括する役割を果たします。

DMOの主な役割は以下の通りです。

  1. 多様な関係者との合意形成:地方自治体、観光業者、地域住民など、観光振興に関わる多様なステークホルダーを調整し、観光地域づくりの戦略を策定します。
  2. データに基づく戦略策定:観光客の動向や市場データを分析し、地域のブランド戦略を明確にし、効果的なプロモーションを展開します。
  3. 観光資源の磨き上げと受入環境の整備:観光地の魅力向上のためのコンテンツ開発や、交通インフラ・多言語対応の充実を図ります。
  4. 観光関連事業の調整・プロモーション:地域の観光事業が戦略に沿った形で展開されるよう調整し、国内外への情報発信を行います。

現在、日本にはDMOが174団体(令和3年11月時点)あり、それぞれの地域に即した観光振興を進めています。

事例:せとうちDMOの取り組み

せとうちDMO(せとうち観光推進機構)は、瀬戸内エリアの7県(兵庫、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛)が連携し、観光地としてのブランド力を強化するために2016年に設立された広域連携DMOです。この地域は、瀬戸内海の豊かな自然景観や歴史的な町並み、美食など、多様な観光資源を持っていますが、従来は県ごとに独立した観光施策が進められていました。

瀬戸内DMOは、地域を一つの観光ブランドとして確立するために以下の取り組みを行っています。

  • 観光資源のブランディング:「瀬戸内=穏やかな海と歴史文化」という統一イメージを打ち出し、国内外の観光客に訴求。
  • デジタルマーケティングの活用:SNSやウェブサイトを活用し、ターゲット層に応じた情報発信を強化。
  • 高付加価値観光の推進:「せとうち七県周遊パス」やラグジュアリーツーリズムの開発により、観光消費の拡大を目指す。
  • 地域事業者との連携:宿泊、交通、飲食など各業界と協力し、観光客の満足度向上を図る。

このように、DMOは地域の観光資源を有効に活用し、持続可能な観光振興を推進する重要な役割を果たしています。地域の特徴を活かした戦略的な観光まちづくりが、今後ますます求められていくでしょう。

2. 観光まちづくりの戦略アプローチ

1) 地域資源の発掘と活用

地域特有の自然資源・歴史資源の活用方法

観光まちづくりにおいて、地域の自然や歴史的な資源を活用することは重要です。これらの資源は、地域独自の魅力を形成し、観光客を惹きつける要素となります。たとえば、豊かな自然環境を活かしたエコツーリズムや、歴史的建造物を修復・活用した観光施設の整備が挙げられます。

日本各地には、美しい景観や固有の生態系を持つ自然資源があります。たとえば、北海道の知床では、ユネスコ世界自然遺産としての価値を活かし、ガイド付きのエコツアーを提供することで、自然環境の保全と観光振興を両立しています。また、京都や奈良のように、歴史的建造物を活用した文化観光は、国内外の観光客を引きつける強力な要素となっています。さらに、城下町や宿場町の景観を保存しながら、新たな観光コンテンツを開発することで、地域全体の魅力を高めることが可能です。

無形文化財・地元文化イベントの観光資源化

無形文化財や地元の伝統文化を観光資源として活用することも、観光まちづくりの有効な手段です。無形文化財には、伝統芸能、工芸技術、郷土料理、祭りなどが含まれます。これらを観光と結びつけることで、地域のアイデンティティを強化し、持続可能な観光資源へと発展させることができます。

例えば、青森県の「ねぶた祭」や、岐阜県の「郡上おどり」などの伝統的な祭りは、多くの観光客を魅了し、地域経済に貢献しています。また、石川県の加賀友禅や金沢の茶道文化のように、伝統工芸や文化体験を観光プログラムとして提供することで、観光客に特別な体験を提供できます。さらに、地元の食文化を生かしたグルメツーリズムも有効な手法であり、地域の特産品を活かしたレストランや食品加工品の開発が進んでいます。

このように、地域に根付いた自然資源や文化を観光と結びつけることで、持続可能な観光まちづくりが実現します。観光資源を単なる「見るもの」から「体験するもの」へと発展させることが、これからの観光振興において重要となるでしょう。

2) 体験型観光の重要性

体験型コンテンツの企画:農業体験やアクティビティ

近年の観光のトレンドとして、「体験型観光」の重要性が高まっています。従来の観光は、観光名所を巡る「観る観光」が主流でしたが、近年は「体験すること」に価値を見出す観光客が増えています。そのため、地域資源を活かした体験型コンテンツの開発が求められています。

例えば、農業体験ツーリズムは、都市部の観光客にとって魅力的なプログラムの一つです。実際に農作業を体験し、収穫した野菜や果物を味わうことで、地域の食文化への理解が深まります。長野県や北海道では、リンゴ狩りやワイン用ブドウの収穫体験が人気となっています。さらに、酪農体験や養蜂体験など、農業以外の一次産業と組み合わせた観光プログラムも注目されています。

また、アウトドアアクティビティも体験型観光の代表的なコンテンツです。例えば、ラフティングやトレッキング、サイクリングツアーなどは、地域の自然環境を活かした観光資源として人気を集めています。特に、瀬戸内海では、穏やかな海を利用したカヤックやSUP(スタンドアップパドル)体験が観光コンテンツとして成功しています。これらのアクティビティは、地域の自然環境と密接に結びついており、環境保護の意識向上にもつながる点が重要です。

ワーケーション・リモートツーリズムの可能性

近年、働き方の多様化に伴い、「ワーケーション(Work + Vacation)」や「リモートツーリズム」が注目を集めています。ワーケーションとは、観光地などで仕事をしながら休暇を楽しむスタイルのことで、企業の福利厚生やリモートワークの推進とともに需要が拡大しています。

ワーケーションの成功例として、和歌山県白浜町が挙げられます。この地域では、高速インターネット環境を整備し、滞在型オフィスを設置することで、都市部の企業や個人がリモートワークをしながら観光を楽しめる環境を提供しています。また、軽井沢や沖縄では、リモートワーカー向けの宿泊施設やワークスペースを備えたリゾート施設の整備が進んでいます。

一方、リモートツーリズムは、現地に行かずとも観光地を体験できる新しい観光の形です。VR(仮想現実)やライブ配信を活用し、観光地の魅力をオンラインで伝える取り組みが進められています。例えば、京都の寺院では、VRを使ったオンライン拝観ツアーを実施し、海外からの参加者にも好評を得ています。

このように、体験型観光は、地域の特性を活かした観光振興の鍵となります。農業体験やアクティビティを通じて観光客に新たな価値を提供し、ワーケーションやリモートツーリズムを活用することで、地域への持続的な観光需要を生み出すことが可能です。地域ごとの強みを活かした体験型観光の企画が、今後の観光まちづくりにおいて重要な役割を果たすでしょう。

3) 地域ブランディングとプロモーション戦略

地域ブランドの確立方法

地域ブランディングとは、地域の魅力や特色を明確にし、観光客に強く印象付けることを目的とした戦略です。成功するためには、地域ならではの文化や自然、食、歴史を活かし、他地域との差別化を図ることが重要です。例えば、「京都=伝統文化」「北海道=広大な自然とグルメ」といったイメージは、長年のブランド戦略によって確立されてきました。地域ブランドを形成するには、地域のストーリーを明確にし、それを一貫した形で発信することが不可欠です。

また、地域の特産品や祭り、観光資源を組み合わせたパッケージ化も有効です。例えば、瀬戸内地域では、アートイベント「瀬戸内国際芸術祭」をブランド化し、アートと観光を融合させることで、新たな観光価値を生み出しています。このように、地域の特性を最大限に活かしたブランド戦略を展開することが、観光まちづくりの成功につながります。

SNS・動画プラットフォームを活用した観光プロモーション

近年、SNSや動画プラットフォームを活用した観光プロモーションが急速に普及しています。InstagramやTikTokを利用した写真・動画コンテンツは、特に若年層の観光意欲を高める効果があります。例えば、京都の着物レンタル店では、インフルエンサーを起用し、美しい着物姿の写真を発信することで、観光需要を喚起しています。

YouTubeでは、地域の魅力を伝えるVlog(ビデオブログ)や、ドローン映像を用いたプロモーションが人気を集めています。例えば、北海道の大自然を映し出した動画は、海外からの観光客誘致に大きく貢献しています。さらに、ライブ配信を活用したバーチャルツアーも増えており、リアルタイムで観光地の雰囲気を伝えることが可能になりました。

このように、SNSや動画プラットフォームを活用することで、地域の観光資源を広く発信し、国内外の観光客を惹きつけることができます。地域ブランドの確立と効果的なプロモーション戦略を組み合わせることで、持続可能な観光振興が実現できるのです。

3. 観光まちづくりにおける成功事例

愛媛県大洲市:観光と街並みの再生

観光まちづくりは、地域に根付く歴史や文化、景観といった資源を活用し、まち全体を活性化する取り組みです。特に近年は、ふるさと納税やクラウドファンディングなどの資金調達手段を活用し、地域ならではの観光コンテンツを創出する動きが広がっています。こうした観光まちづくりの成功例として注目されるのが、愛媛県大洲市の取り組みです。

大洲市は、かつて城下町として栄え、多くの歴史的建造物が残る地域です。しかし、維持管理の負担が大きく、貴重な建物が取り壊される事態が進んでいました。そこで、大洲市は「DMO(Destination Management Organization)」として2018年に一般社団法人キタ・マネジメントを設立し、観光とまちづくりを一体化させるプロジェクトを展開しました。

分散型ホテルによる観光再生

大洲市が採用したのは「アルベルゴ・ディフーゾ(分散型ホテル)」という手法です。これは、地域に点在する古民家や商家をリノベーションし、それぞれを客室やレストランとして機能させ、町全体をホテルのように活用する考え方です。これにより、宿泊客は街を回遊するようになり、宿泊施設だけでなく飲食店にも賑わいが生まれます。このモデルを活かして、大洲市では「NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町」や、城内に宿泊できる「大洲城キャッスルステイ」を開業しました。これにより、観光客は歴史的な街並みを五感で体験できる宿泊スタイルを楽しむことができるのです。

この取り組みは地域資源の保全と観光振興を両立させたモデルとして評価され、2021年度グッドデザイン賞を受賞しました。観光が単なる経済活動にとどまらず、地域文化の再生や歴史の継承にも寄与する事例となっています。

DMOの役割とふるさと納税の活用

観光まちづくりを推進するキタ・マネジメントは、単に観光客を増やすことが目的ではありません。地域の魅力を維持しながら、持続可能なまちづくりを進めることを使命としています。そのために、ふるさと納税を活用し、歴史的建造物の修復や観光資源の開発に必要な資金を確保する仕組みを整えました。また、地域おこし協力隊や臨時職員を配置し、人材の確保と地域経済の活性化も同時に進めています。

大洲市の事例は、観光を地域振興の手段として活用しつつ、地域資源を未来に受け継ぐためのモデルとして示唆に富んでいます。皆さんも、観光がどのようにまちづくりと結びつくのかを考え、持続可能な地域活性化の方法について探究してみてください。

4. 観光まちづくりの課題とその解決策

1) オーバーツーリズムと環境保護のバランス

観光振興は地域経済の活性化に貢献しますが、観光客の急増が地域住民の生活環境を悪化させる「オーバーツーリズム」の問題を引き起こすことがあります。観光地の過密化により、交通渋滞や騒音、ゴミ問題などが発生し、住民の生活が圧迫されることが課題となっています。こうした状況を放置すると、観光地の魅力が低下し、持続的な観光まちづくりが困難になります。

地域住民の生活環境を守るための対策

オーバーツーリズムを抑えるためには、観光客の流れを適切に管理することが重要です。たとえば、観光税の導入入場制限の実施によって、過剰な観光客の流入を防ぐ方法が考えられます。また、観光客を特定のエリアに集中させるのではなく、観光ルートの分散化を図ることで、地域全体の負担を軽減できます。京都市では、混雑する中心部への観光客集中を避けるために、周辺地域の観光資源を活用する施策が進められています。

環境負荷を軽減する観光施策

環境への影響を最小限に抑えるため、エコツーリズムの推進公共交通の活用促進が求められます。例えば、富士山では登山者の環境負荷を軽減するためにマイカー規制を実施し、公共交通機関を利用したアクセスを推奨しています。また、ゴミ問題に対応するために観光地での使い捨てプラスチック削減持ち帰りゴミの推奨といった取り組みも効果的です。

ドクシーのイライラ指数(Doxey’s Irritation Index)と観光地の持続可能性

観光開発が進むにつれ、地域住民の観光に対する態度は変化します。カナダの観光学者Doxey(ドクシー)は、「Irritation Index(観光地住民のイライラ指数)」という概念を提唱しました。ドクシーのイライラ指数とは、観光地の発展とともに地元住民の態度が「好意的→無関心→不満→敵対」の順に変化すると指摘しました。観光を持続可能なものにするためには、住民の意見を取り入れた観光計画が不可欠です。行政や観光業者は、定期的な住民アンケートや意見交換会を開催し、地域住民との合意形成を図ることが求められます。

観光まちづくりを成功させるためには、観光客の誘致と地域住民の生活環境の維持のバランスが重要です。オーバーツーリズムによる弊害を防ぐために、観光客の分散化や環境負荷の軽減策を講じ、地域住民の声を反映した持続可能な観光計画を策定することが求められます。

2) 地域住民との協働・合意形成

観光まちづくりを成功させるためには、地域住民の理解と協力が不可欠です。観光が地域経済を活性化させる一方で、住民の生活環境や地域文化に影響を与えることもあります。そのため、観光振興を進める際には、「観光客のためのまち」ではなく、「住民も楽しめるまち」を目指すことが重要です。

住民参加型ワークショップの重要性

住民が主体的に関わることで、観光まちづくりの持続可能性が高まります。そのための手法の一つが、住民参加型ワークショップです。ワークショップでは、観光振興のメリットと課題を住民と行政、観光事業者が共有し、地域に適した観光開発の方向性を議論します。例えば、京都市では、オーバーツーリズム問題への対応として、住民を交えた意見交換会を開催し、混雑対策や住民の生活環境を守る施策を検討しています。

「住民も楽しめるまち」づくりの視点

観光施策は、住民の暮らしを豊かにするものでなければなりません。例えば、観光客向けの施設を整備する際に、地域住民も利用できるコミュニティスペースとして設計することで、観光と日常生活の調和を図ることができます。また、地域の伝統行事や文化イベントを観光資源とする際には、住民が主体となり、地域の誇りを高める仕組みを作ることが望ましいです。

観光まちづくりは、観光客だけでなく地域住民にとっても魅力的なまちづくりであるべきです。住民参加型ワークショップを活用し、地域の声を反映した観光振興を進めることで、観光と生活のバランスを取りながら、持続可能なまちづくりを実現できます。

3) インフラ整備とデジタル技術の導入による観光まちづくりの強化

観光まちづくりを成功させるためには、訪問者が快適に過ごせる環境を整備することが不可欠です。特に、道路や交通の改善、公共施設の充実、デジタル技術の活用は、観光客の利便性向上や地域経済の発展に大きく寄与します。

道路・交通・公共施設の改善

観光地では、交通の利便性が訪問者の満足度を大きく左右します。例えば、観光客が多く訪れる地域では、公共交通の整備や、観光拠点を結ぶシャトルバスの導入が求められます。また、駐車場の確保や歩行者専用エリアの設置なども、快適な観光体験を提供するうえで重要です。さらに、公共トイレや観光案内所などの施設を整備することで、訪問者の利便性を向上させることができます。

デジタルツーリズムの普及

近年、AR(拡張現実)やスマホアプリを活用したデジタルツーリズムが注目されています。例えば、石見銀山では歴史的建造物をARガイドで解説することで、観光客はより深い理解を得ることができます。また、観光アプリを活用し、観光スポットの混雑状況やおすすめルートをリアルタイムで案内することで、快適な観光体験を提供できます。

データを活用した観光流動の可視化と最適化

ビッグデータやAIを活用することで、観光客の動向を分析し、最適な観光ルートを提案することが可能です。例えば、スマホのGPSデータをもとに観光客の流れを可視化し、混雑を回避するルートを提示することで、観光地の過密化を防ぐことができます。

観光まちづくりには、交通インフラの整備とデジタル技術の活用が不可欠です。最新の技術を導入することで、観光客の利便性を向上させるだけでなく、地域の持続可能な発展にもつなげることができます。

5.今後の観光まちづくりの方向性

1) 持続可能な観光まちづくり

観光産業は地域経済の活性化に寄与する一方で、環境負荷や住民との摩擦といった課題も抱えています。また、観光地には流行り廃れがあるのも事実です。今後の観光まちづくりにおいては、持続可能性を重視し、地域資源を適切に活用しながら長期的に発展させる戦略が求められます。

サステイナブル・ツーリズムの推進

サステイナブル・ツーリズム(持続可能な観光)とは、環境、社会、経済のバランスを保ちながら観光を発展させる考え方です。例えば、観光客の急増による環境負荷を抑えるために、入場制限や観光税の導入が進められています。また、観光客が地域に貢献できる仕組みとして、エコツーリズムやボランティアツーリズムの推進も重要です。これにより、観光を単なる消費活動ではなく、地域と観光客が共生する形へと進化させることが可能になります。

地域資源循環型の観光モデル構築

持続可能な観光を実現するためには、地域の資源を有効に活用し、循環させる観光モデルの構築が必要です。例えば、地元の食材を活かした「地産地消レストラン」や、伝統工芸を体験できるワークショップなど、地域資源を活かした観光コンテンツが注目されています。また、宿泊施設や観光事業者が再生可能エネルギーを活用し、エコフレンドリーな運営を行うことで、観光と環境保護の両立が可能になります。

持続可能な観光まちづくりは、地域の文化や自然を守りながら、観光を通じた経済活性化を目指すものです。サステイナブル・ツーリズムの推進と地域資源の循環を意識することで、観光地の価値を高め、将来にわたって魅力的な地域づくりが実現できます。

2) 「観光教育」と地域人材の育成

持続可能な観光まちづくりを推進するためには、地域住民の理解を深め、次世代の観光人材を育成することが不可欠です。そのため、多くの地域で「観光教育」プログラムの導入が進められています。

地域住民と次世代人材に向けた観光教育プログラム

観光教育は、小中高生を対象とした地域資源の学習や、大学・専門学校での観光マネジメント講座など、多様な形で展開されています。特に、地域の歴史や文化を学ぶ機会を提供することで、住民自身が観光資源の価値を再認識し、観光振興への積極的な関与が期待されます。また、地元の観光産業に興味を持つ若者を増やし、将来的な観光人材の確保にもつながります。

観光コーディネーターの育成事例

観光コーディネーターは、地域資源を活用し、新たな観光商品を企画・運営する役割を担います。例えば、観光庁では観光人材育成プログラムを実施し、地域ガイドやイベント企画者の養成を行っています。このような取り組みにより、地域に根ざした観光の担い手を増やし、持続可能な観光まちづくりを実現することができます。

6. まとめ

観光によるまちづくりは、地域資源を活かし、経済的・社会的に持続可能な発展を目指す取り組みです。観光は地域経済を支えるだけでなく、文化の保全や住民の誇りの向上にも寄与します。本稿では、観光まちづくりの基本概念、成功事例、課題と解決策、今後の方向性について考察しました。

地域を活性化する観光戦略の作成

持続可能な観光を実現するためには、地域の独自性を生かしたブランディングが重要です。さらに、住民との協働を通じた観光施策の立案や、デジタル技術を活用した観光体験の向上も不可欠です。また、環境負荷を抑えながら地域経済に貢献する観光モデルの構築も求められます。

地域の新たな発見とアイデンティティの再発見

観光まちづくりは、地域の資源を洗い出し、地域の文脈から新たな魅力づくりを行うことでもあります。観光は経済活性化のための手段だけではなく、自分の地域を見つめ直す機会でもあり、地域アイデンティティを再発見することにもつながります。

参考図書

ジョン・アーリー(2014)『観光のまなざし』法政大学出版局

宮崎 裕二/岩田 賢(2020)『DMOのプレイス・ブランディング』学芸出版社 

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