なぜデジタル市場は一部企業に集中するのか――ネットワーク効果とロックイン

ビジネス

はじめに

前記事では、デジタル企業が巨大化する背景に、低い限界費用、規模の経済、収穫逓増、そして複数の自己強化があることを説明しました。

しかし、「企業が巨大化すること」と「市場が一部の企業に集中すること」は同じではありません。

自動車産業を考えてみましょう。世界には巨大な自動車メーカーがいくつも存在し、互いに競争しています。あるメーカーの自動車を購入する人が増えたからといって、別のメーカーの自動車が使えなくなるわけではありません。

ところが、検索エンジン、SNS、スマートフォンOSなどの一部のデジタル市場では、少数の企業が圧倒的な地位を占める傾向がみられます。

なぜでしょうか。

その重要な理由が、ネットワーク効果です。

ネットワーク効果が強く働く市場では、利用者が増える → サービスの価値が高まる → さらに利用者が増えるという循環が生まれます。

さらに、経路依存、ティッピング、スイッチングコスト、ロックインが加わると、一度形成された企業の優位が容易には崩れなくなります。

こうしてデジタル市場では、企業の「巨大化」が、少数企業への「市場集中」へと転換していきます。

1 「利用者が多いこと」自体が価値になる

ネットワーク効果を理解するために、まず電話を考えてみましょう。

世界で自分一人しか電話を持っていなければ、その電話に通信手段としての価値はほとんどありません。二人が持てば、互いに通話できます。100人、1万人、100万人と利用者が増えれば、電話を使って連絡できる相手も増えていきます。

つまり、電話には、利用者が増えるほど、既存利用者にとってもサービスの価値が高まる

という性質があります。

これがネットワーク効果です。

一般的な商品との違いを考えると分かりやすいでしょう。ある自動車メーカーの自動車を利用する人が100万人から200万人に増えたからといって、自分の自動車の走行性能が2倍になるわけではありません。

ところがSNSやメッセージサービスでは、知人や友人などの利用者が増えれば、自分にとってもサービスを利用する価値が高まる場合があります。

ここでは、サービスの価値が高い→ 利用者が増えるだけではなく、利用者が増える→ サービスの価値が高まるという逆方向の因果関係も成立します。

その結果、利用者増加→ サービス価値上昇→ 新規利用者増加→ さらなるサービス価値上昇という正のフィードバックが生まれます。

ここから先の議論を先取りして、ネットワーク効果が市場集中につながるプロセスを整理すると、次のようになります。

図 ネットワーク効果が市場集中を生む5段階

出典:著者作成

2 直接ネットワーク効果――「みんなが使うから自分も使う」

ネットワーク効果には、大きく二つのタイプがあります。

一つが直接ネットワーク効果です。

同じ種類の利用者が増えることによって、既存の利用者にとってもサービスの価値が高まる現象です。

たとえばメッセージサービスを考えてみましょう。

日本ではLINEが広く利用されています。仮に、LINEよりも機能的に優れた新しいメッセージアプリが登場したとします。しかし、自分の家族、友人、学校や職場の関係者がほとんどLINEを利用していれば、自分一人だけ新しいアプリへ移動しても十分な利便性は得られません。そこで、「みんながLINEを使っているから、自分もLINEを使う」という選択が合理的になります。

ここが通常の商品選択とは違うところです。

商品そのものの品質だけではなく、「他の人が何を使っているか」が自分の選択に影響します。その結果、利用者が多い→ 便利になる→ 新しい利用者が選ぶ→ さらに利用者が多くなるという循環が形成されます。

企業にとっては、現在の利用者数そのものが将来の競争力になるわけです。

3 間接ネットワーク効果――AmazonやAppleでは何が起きるのか

もう一つが、間接ネットワーク効果です。

これは、前の記事で説明したプラットフォームと深く関係しています。

同じ種類の利用者同士ではなく、一方の参加者が増えることで、別の種類の参加者にとっての価値が高まり、それが再び最初の参加者に利益をもたらす現象です。

たとえばAmazonのマーケットプレイスを考えてみましょう。

消費者が増える→商品を販売したい事業者が増える→商品の種類が充実する→消費者にとってAmazonを利用する魅力が高まる→さらに消費者が増えるという循環が生まれます。

AppleのiPhoneとApp Storeでも同じような関係を考えることができます。

iPhone利用者が増える→アプリ開発者にとって市場としての魅力が高まる→利用できるアプリが充実する→iPhoneの利便性が高まる→さらに利用者が増える。

この場合、利用者同士が直接つながっている必要はありません。

異なる種類の参加者が互いを引き寄せることで、プラットフォーム全体が成長します。

したがって、プラットフォームでは単純な「企業→消費者」という関係以上に強力な自己強化が生まれる可能性があります。

4 ネットワーク効果と規模の経済は何が違うのか

ここで、前記事で説明した規模の経済と、本記事のネットワーク効果を区別しておきましょう。

両者は企業を巨大化させるため、混同されやすい概念です。しかし、働く場所が違います。

規模の経済は主として企業側の費用に関係します。利用者が増える→ 固定費が多数の利用者に分散される→ 1人当たりの費用が低下するという関係です。

これに対してネットワーク効果は、主として利用者側の価値に関係します。

利用者が増える→ サービスの価値が高まる→ さらに利用者が増えるという関係です。

つまり、規模の経済=大きくなるほど「安くつく」、ネットワーク効果=大きくなるほど「価値が高まる」と整理すると分かりやすいでしょう。

図 規模の経済とネットワーク効果の比較

出典:著者作成

そしてデジタル市場では、この二つが同時に働く場合があります。

企業側では規模拡大によってコスト面で有利になり、利用者側では利用者が多いサービスほど魅力的になる。

これが、市場集中を加速させる重要な要因になります。

5 小さな差が大きな差になる――経路依存

ネットワーク効果が強く働く市場では、最初はわずかだった企業間の差が、時間の経過とともに拡大する可能性があります。

ここで重要になるのが経路依存です。

たとえば、AとBという二つのサービスが存在し、機能や品質には大きな違いがなかったとしましょう。

ところが、何らかの理由によってAの利用者が少しだけ多くなったとします。

すると、Aの利用者が少し多い→Aを利用する価値が少し高くなる→新規利用者がAを選ぶ→利用者数の差がさらに広がる→Aの価値がさらに高まるという循環が始まる可能性があります。

重要なのは、最終的な勝者が必ずしも最初から圧倒的に優れたサービスだったとは限らないことです。

サービス開始のタイミング、初期の顧客獲得、他社との提携、偶然の出来事など、初期段階の小さな差が自己強化され、その後の発展経路を左右する可能性があるのです。

これが経路依存です。

デジタル市場では、「現在どの企業が強いのか」だけでなく、「どのような経路を通って現在の市場構造が形成されたのか」を見る必要があります。

そして、経路依存によって拡大した小さな差が、ある水準を超えると、市場構造そのものが大きく変化することがあります。

6 ある瞬間から市場が傾く――ティッピング

ネットワーク効果が強い市場では、複数の企業が同程度のシェアで競争し続けるとは限りません。

ネットワーク効果が働くサービスでは、利用者が少ない段階では十分な価値を生み出せない場合があります。しかし、利用者が一定の規模を超えると、ネットワーク効果が強まり、利用者の増加が加速します。この転換点となる規模をクリティカルマス(臨界規模)と呼びます。

そして、その臨界規模を超えた後に市場シェアが急速に一方へ傾いていく現象がティッピングと呼びます。

たとえば、スマートフォンOSを考えてみましょう。利用者が多いOSにはアプリ開発者が集まりやすい。→アプリが増えると、そのOSを利用する魅力が高まる。→さらに利用者が増える。→すると、開発者にとっても、そのOSを優先してアプリを開発する合理性が高まります。

この循環がある水準を超えると、「利用者が多いから開発者が集まり、開発者が集まるから利用者が増える」という自己強化が加速します。

その結果、市場が一気に少数のプラットフォームへ傾く可能性があります。

ここで、前回の記事との違いがはっきりします。

収穫逓増や規模の経済による自己強化は、主として「なぜデジタル企業が大きくなりやすいのか」を説明します。一方、ネットワーク効果による自己強化に経路依存やティッピングが加わると、「なぜ市場が特定の企業へ集中しやすいのか」まで説明できるようになります。

この二つを区別することが重要です。

ただし、ネットワーク効果が存在すれば必ず一社独占になるわけではありません。複数のサービスを同時に利用できる場合などには、複数企業が共存することもあります。

7 一度使い始めると離れにくい――ロックイン

しかし、市場集中を説明するには、ネットワーク効果だけでは十分ではありません。もう一つ重要なのがロックインです。

ロックインとは、ある商品やサービスを利用し始めると、別の商品やサービスへ切り替えることが難しくなる状態を意味します。

たとえば、長年スマートフォンやクラウドサービスを利用していると、写真や文書などのデータが蓄積され、購入したアプリやコンテンツも増えていきます。また、操作方法に慣れ、他の端末やサービスとの連携も進みます。

こうした状態から別のサービスへ移動する際には、

  • データを移す手間
  • 新しい操作方法を覚える時間
  • 蓄積した評価や履歴を失うこと
  • 購入したコンテンツを利用できなくなること

などの負担が発生します。これをスイッチングコストと呼びます。

利用期間が長くなり、さまざまなものが蓄積されるほど、サービスから離れるコストは大きくなります。

さらに、SNSやメッセージアプリのようなネットワーク型サービスでは、人とのつながりそのものがロックインを生み出すことがあります。SNSを長く利用すると、友人や知人、仕事上のつながり、フォロワーなどのネットワークが形成されます。さらに、過去の投稿や写真、メッセージなども蓄積されていきます。仮に、より優れたSNSやメッセージアプリが登場したとしても、自分だけが移動すれば、これまで築いてきた人間関係や情報のネットワークをそのまま利用できるとは限りません。ここでは、金銭的な費用だけでなく、これまで築いてきたつながりを失うこと自体がスイッチングコストになります。

その結果、利用者が増える → 人とのつながりが蓄積される → サービスの価値が高まる → 移動するコストが高まる → 利用者が定着するという循環が形成されます。

つまり、「みんなが使っているから利用者が増える」だけでなく、「みんなが使っているから離れにくい」という二重の作用が生じます。

ネットワーク効果が利用者を「引きつける力」だとすれば、ロックインは利用者を「とどめる力」です。この二つが組み合わさることで、一度形成された企業の優位はさらに強固になります。

この段階になると、競争は単純なサービス同士の機能競争ではありません。新規参入企業は、より優れた機能を提供するだけでなく、既存サービスが長い時間をかけて形成してきた利用者、データ、コンテンツ、そして人間関係のネットワーク全体と競争しなければならないです。

8 巨大化と「勝者総取り」はどうつながるのか

ここまでの議論を整理すると、デジタル企業の巨大化から市場集中までの流れが見えてきます。

前の記事で説明したように、デジタル企業は、低い限界費用→規模の経済→収穫逓増→自己強化によって急速に成長する可能性があります。

しかし、企業が巨大化しただけでは、市場がその企業に集中するとは限りません。

そこに本記事で説明した、ネットワーク効果→経路依存→クリティカルマス→ティッピング→スイッチングコスト→ロックインというメカニズムが加わります。

図 ネットワーク効果による自己強化メカニズム

出典:著者作成

利用者が増えるほどサービスの価値が高まり、それがさらに利用者を呼び込む。一方で、データやコンテンツ、人間関係などが蓄積されるほど、既存の利用者は他のサービスへ移動しにくくなります。

つまり、ネットワーク効果が利用者を「引きつけ」、ロックインが利用者を「とどめる」のです。この二つの力によって、「企業が大きくなる」ことが「市場がその企業へ集中する」ことへとつながります。これが、一部のデジタル市場で「勝者総取り」型の市場構造が生まれやすい理由です。

おわりに 競争相手は「企業」だけではない

ここまで見てくると、デジタル市場における競争が、通常の商品市場とは異なることが分かります。

新しい企業が、既存企業より優れたサービスを開発したとしても、それだけで利用者が移動するとは限りません。既存企業には、すでに多くの利用者が存在し、データやコンテンツ、人間関係、アプリや事業者などのネットワークが形成されているからです。

つまり、新規参入企業が競争しなければならない相手は、既存企業の商品やサービスだけではありません。その企業を中心として形成されたネットワーク全体なのです。

この視点に立つと、デジタル市場の競争を理解するには、単純な「企業対企業」ではなく、「エコシステム対エコシステム」として捉える必要があることが分かります。

そして、この競争力をさらに強化する重要な要素が、利用者から蓄積されるデータです。

次記事では、「データはなぜ『資本』になったのか――データ資本主義の蓄積構造」について考えていきます。

参考文献

カール・シャピロ、ハル・ヴァリアン(2018)大野一訳『情報経済の鉄則――ネットワーク型経済を生き抜くための戦略ガイド』日経BP社

ジェフリー・G・パーカー、マーシャル・W・ヴァン・アルスタイン、サンジート・ポール・チョーダリー(2018)妹尾堅一郎監訳・渡部典子訳『プラットフォーム・レボリューション――未知の巨大なライバルとの競争に勝つために』ダイヤモンド社

W・ブライアン・アーサー(2003)有賀裕二訳『収益逓増と経路依存――複雑系の経済学』多賀出版

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