
はじめに
Amazonは、なぜこれほど大きな力を持つのでしょうか。
単に世界有数の巨大企業だからではありません。Amazonは自ら商品を販売する一方で、他の企業が商品を販売する「市場そのもの」を運営しています。
同じように、“ビッグテック”と呼ばれる巨大プラットフォーム企業は、私たちが情報を探し、商品を買い、サービスを利用する「場」を提供しています。そして、その場に人々が集まるほど、膨大なデータが蓄積され、そこで活動するためのルールを決める力も大きくなります。
巨大プラットフォームは、単に市場で成功した企業ではありません。市場そのものをつくり、情報を集め、ルールまで設計する存在になっています。
では、こうした企業は、なぜ普通の大企業とは異なる「権力」を持つようになったのでしょうか。
1 市場の中で競争する企業から「市場をつくる企業」へ
従来の企業は、基本的には市場の中で競争する存在でした。自動車メーカーであれば、他のメーカーと価格、性能、デザインなどを競います。家電メーカーも、他社の商品と消費者をめぐって競争します。大企業であれば市場へ大きな影響を与えることはできますが、それでも基本的には、市場という舞台の上で競争するプレイヤーです。
ところが、プラットフォーム企業は少し違います。
- Amazonのマーケットプレイスには、多数の販売者と消費者が参加します。
- AppleのApp Storeには、アプリ開発者とiPhone利用者が参加します。
- YouTubeには、動画制作者、視聴者、広告主が集まります。
ここでプラットフォーム企業は、単に商品を販売しているわけではありません。
他の企業や個人が経済活動を行う「市場そのもの」を運営しています。
したがって、
- 従来型企業=市場の中で競争する企業
- プラットフォーム企業=市場の中で競争しながら、市場そのものも運営する企業
という違いが生まれます。
この違いが、プラットフォーム企業の権力を理解する出発点です。
つまり、巨大プラットフォーム企業は単なる「大企業」ではありません。市場を運営し、膨大な情報を保有し、参加者が活動するルールまで設計する存在になっています。
巨大プラットフォーム企業がもつ権力は、大きく三つに整理することができます。
① 市場を支配する力(市場権力)
② 情報を支配する力(情報権力)
③ ルールを支配する力(統治権力)
デジタル経済では、これら三つの力が一つの企業の中で結びつくことによって、従来の巨大企業とは異なる新しい企業権力が形成されています。
2 第一の権力――市場へのアクセスを左右する力
プラットフォーム企業が持つ第一の権力が、市場権力です。
Amazonで商品を販売する企業にとって、Amazonのマーケットプレイスは重要な販売経路になることがあります。AppleのiPhone利用者へアプリを提供しようとすれば、App Storeという流通経路が重要になります。
つまり、プラットフォームが巨大化すると、そこへ参加できるかどうかが、企業の事業機会そのものを左右するようになります。
プラットフォーム企業は、
- 誰が市場へ参加できるのか
- どのような条件で出品できるのか
- どの程度の手数料が必要なのか
- どのような決済方法を利用できるのか といった条件を設定できます。
これは一般の製造企業とは異なる力です。自動車メーカーが、自動車市場全体への他社の参加条件を決めることは通常ありません。
しかしプラットフォーム企業は、自らも市場参加者でありながら、他の市場参加者が活動する条件へ影響を与えられます。
ここに市場権力の特徴があります。
3 Amazonに見る「市場運営者」と「市場参加者」の二重性
この市場権力をイメージしやすいのが先から例に挙げているAmazonです。Amazonは自ら商品を販売すると同時に、第三者の販売者が商品を販売するマーケットプレイスも運営しています。
つまり、Amazon自身も売り手である、一方で、他の売り手が参加する市場の運営者でもあるという二重の立場を持っています。
市場を運営する企業は、どの商品が売れているのか、どのような価格で販売されているのか、消費者が何を検索しているのかなど、市場全体について豊富な情報を得られる可能性があります。同時に、自社もその市場で商品やサービスを提供しています。
つまり、市場の中で競争するプレイヤーと、市場を管理する運営者が同じ企業であるという構造です。
これはデジタル・プラットフォームの権力を考えるうえで非常に重要です。
プラットフォーム企業は、単なる「仲介者」ではなく、市場へのゲートキーパーとして機能する可能性があるからです。
4 第二の権力――利用者を「知る」力
第二の権力が、情報権力です。
私たちはデジタルサービスを利用するたびに、さまざまなデータを生み出します。
- Googleで検索する。
- Amazonで商品を見る。
- Instagramの投稿を見る。
- YouTubeで動画を視聴する。
こうした活動から、検索、閲覧、購買、反応などに関するデータが生まれます。
一つひとつのデータだけを見れば、それほど大きな意味を持たないかもしれません。
しかし、大量に蓄積し、複数のデータを組み合わせ、アルゴリズムによって分析すると、利用者の関心や行動傾向を推測できる場合があります。すると、企業と利用者の間に大きな情報の非対称性が生まれます。企業は利用者について多くの情報を持つことができます。
一方、利用者は、企業が自分についてどのようなデータを持っているのか。そのデータがどのように分析されているのか。どのような推測が行われているのか。十分に把握できないことがあります。
つまり、企業は利用者について知ることができるが、利用者は企業が自分について何を知っているのかを十分に知らないという関係です。
ここでデータは単なる経済資源ではなく、情報をめぐる権力の源泉にもなります。
5 アルゴリズムは「見える世界」と「選択肢」をつくる
情報権力を考えるうえで分かりやすいのがGoogle検索です。私たちがGoogleで検索すると、インターネット上の情報がそのまま表示されるわけではありません。検索エンジンが情報を収集し、アルゴリズムによって順位づけした結果が表示されます。
これはGoogleだけではありません。Amazonでは商品、YouTubeでは動画、InstagramやFacebookでは投稿が選ばれ、利用者に提示されます。アルゴリズムは、私たちが何を見るのか、何を買うのか、次に何を選ぶのかに深く関わっています。
もちろん、最終的に選択するのは利用者です。しかし、その前に「何が選択肢として提示されるのか」がすでに絞り込まれています。権力とは、命令や禁止だけではなく、人々が行動する条件や選択肢を設計する力でもあります。
そして、先に説明した利用者データを利用すれば、企業は「この商品を買う可能性が高い」「この動画に興味を持つ可能性が高い」といった行動を予測できます。そして、その予測をもとに商品の表示位置や広告、推薦する動画を変えることで、利用者の行動にも一定の影響を与えることができます。
つまり、データの収集→行動の予測→選択肢の提示→利用者の行動→新たなデータの蓄積という循環が生まれます。
人々について「知る力」が「予測する力」へ、さらに「選択肢を構成し、行動に影響する力」へとつながっていく。ここに、データ資本主義における情報権力の重要な特徴があります。
6 第三の権力――市場の「ルール」を決める力
第三の権力が、ルールを設計する力、すなわち統治権力です。
AppleのApp Storeを考えてみましょう。アプリ開発者がiPhone利用者にアプリを提供するためには、Appleが設定したルールに従う必要があります。どのようなアプリを掲載できるのか、どのような決済方式を利用できるのか、違反した場合にどうなるのか。こうした条件をプラットフォーム企業が決めています。
SNSでも同じです。どの投稿を認めるのか、何を削除するのか、どのような場合にアカウントを停止するのか。プラットフォーム企業は市場やサービスを提供するだけでなく、そこで人々がどのように行動できるのかを決める「ルールメーカー」でもあります。
社会の基本的なルールを定めるのは政府です。しかし、私たちが日常的に活動するデジタル空間では、法律だけでなく、企業が定める利用規約やアルゴリズムも人々の行動を左右しています。
その意味で、巨大プラットフォームは、企業が所有し、企業がルールを設定する「私的な統治空間」を形成しています。プラットフォームが社会インフラに近づくほど、その統治権力も大きくなります。そこで問われるのが、「私企業が社会的な場をどこまで統治してよいのか」という問題です。
7 市場権力・情報権力・統治権力は互いに強化し合う
ここまで、プラットフォームの権力を「市場権力」「情報権力」「統治権力」の三つに分けて説明してきました。しかし、重要なのは、三つの権力が独立して存在するのではなく、互いを強めながら循環していることです。
大きな市場には多くの利用者や企業が集まり、大量のデータが蓄積されます。データを分析すれば市場や利用者をより深く知ることができ、アルゴリズムやサービスを改善できます。その結果、利用者や企業の依存度が高まり、プラットフォーム企業が参加条件や取引条件を設定する力も強くなります。
この自己強化の流れを示したのが下図です。市場権力が情報権力を生み、情報権力が統治権力を強め、その統治権力が再び市場権力を強化していきます。
つまり、市場を握る【市場権力】→データが集まる→市場と利用者を知る【情報権力】→アルゴリズムを改善する→利用者・企業がさらに依存する→ルールを設定する力が強くなる【統治権力】→市場をさらに握る、という循環です。

図 巨大プラットフォーム(ビッグテック)企業の3つの権力
巨大プラットフォームの特徴は、単に三つの権力を持っていることではありません。市場権力・情報権力・統治権力が循環し、一つの権力の拡大が次の権力を強めることで、「企業権力の自己強化」が生じることにあります。
8 巨大プラットフォームは悪なのか
巨大プラットフォーム企業は問題ばかりを生み出しているように見えるかもしれません。しかし、そう単純ではありません。
プラットフォームが巨大化したのは、多くの利用者が価値を感じて利用したからでもあります。Google検索によって膨大な情報へ容易にアクセスでき、Amazonでは多数の商品を比較・購入できるようになりました。YouTubeなどは、個人が世界へ情報を発信する機会も広げました。つまり、プラットフォーム企業の権力は、大きな利便性を提供することで形成された権力でもあります。
しかし、ここにパラドックスがあります。利用者を増やし、サービスを便利にする仕組みそのものが、企業の権力を強める仕組みにもなっているからです。利用者が増えればデータが集まり、それを分析することで、企業は人々の行動をより深く予測できるようになります。
こうした情報権力を批判的に捉えた代表的な議論が、ショシャナ・ズボフの「監視資本主義」です。問題はプライバシーだけではありません。広告や推薦を通じて、企業が人々の行動をどこまで予測し、影響を与えられるのかも問われます。
だからといって、巨大プラットフォームを単純に分割すればよいとも限りません。ネットワーク効果やサービス間連携による利便性が失われる可能性があるからです。
問われているのは、「巨大企業を認めるか否か」ではありません。利便性を生み出す仕組みを維持しながら、データと企業権力の過度な集中をどう防ぐのか、これが巨大プラットフォームをめぐる本当の課題なのです。
9 なぜ政府は巨大プラットフォームを規制しようとするのか
こうした問題から、各国では巨大デジタル企業に対する競争政策やデジタル規制が重要な政策課題になっています。従来の独占禁止政策では、企業が価格を引き上げ、消費者に不利益を与えているかどうかが重要な判断材料でした。
しかし、デジタル・プラットフォームでは無料で提供されているサービスも多くあります。検索エンジンやSNSを無料で利用している場合、単純に「価格が高いから市場支配が問題だ」と判断することはできません。
そこで問題になるのが、
- 市場への参入条件
- データへのアクセス
- 自社サービスの優遇
- アプリや販売者への取引条件
- 利用者が他社サービスへ移動できるか などです。
ここにプラットフォームをめぐるパラドックスがあります。利用者を増やし、サービスを便利にする仕組みそのものが、同時に企業の権力を強める仕組みにもなっているのです。
デジタル時代の競争政策では、「価格が高すぎないか」だけではなく、「市場を運営する企業自身が競争条件を歪めていないか」が問われるようになりました。
つまり、デジタル時代の競争政策では、価格だけではなく、市場そのものが公正に競争できる構造になっているのかを見る必要があります。
巨大プラットフォームの規制をめぐる問題は、単なる「巨大企業対政府」の争いではありません。デジタル市場を誰が、どのようなルールで設計するのかという問題なのです。
まとめーーデジタル時代の権力とは何か
以上を整理すると、巨大プラットフォームが持つ権力は三つにまとめることができます。
① 市場権力:プラットフォームへの参加条件、手数料、取引環境などを左右する力。
② 情報権力:膨大なデータを保有し、利用者や市場について知り、予測し、情報を選別する力。
③ 統治権力:利用規約、アルゴリズム、ランキング、アクセス条件などを通じて、デジタル空間のルールを設計する力。
重要なのは、三つの権力が同じ企業の中で結びついていることです。巨大プラットフォームは、市場のプレイヤーであると同時に、市場の運営者であり、情報の管理者であり、ルールメーカーでもあります。これこそ、データ資本主義が生み出した新しい企業権力の特徴です。
しかし、ここでもう一つ重要な問いが残ります。
巨大プラットフォームの「権力」は、サイバー空間の中だけに存在しているのでしょうか。
実際には、その背後には、本社、研究開発拠点、高度人材、ベンチャー資本、データセンター、半導体、通信網、電力など、現実の都市や地域があります。デジタル経済が生み出した「権力の集中」は、「場所の集中」とどのように結びついているのでしょうか。
次の記事では、「デジタル経済は『場所』をなくすのか――集中が生み出す新しい経済地理」について考えていきます。
参考文献
ショシャナ・ズボフ(2021)『監視資本主義: 人類の未来を賭けた闘い』野中香方子訳、東洋経済新報社

