プラットフォームはなぜデジタル経済の中心になったのか

ビジネス

はじめに

前の記事では、デジタル経済を「データ・演算・ネットワークを基盤として価値を創出し、その価値を社会に広く流通させる経済」と捉えました。

⇒デジタル経済の仕組み――データ・演算・ネットワークはどう価値を生み出すのか

データは人間や企業の活動を記録し、演算はそのデータを検索、予測、推薦などの価値へ変換します。そしてネットワークは、その価値を世界中の利用者へ届けます。

しかし、データ・演算・ネットワークという技術的な基盤だけでは、現在のデジタル経済の姿を十分に説明することはできません。

もう一つ重要なのが、「誰と誰を結びつけ、どのようなルールのもとで経済活動を行わせるのか」という問題です。

この役割を担うのが、プラットフォームです。

Amazonは消費者と販売者を結びつけ、Googleは情報を探す利用者とウェブ上の情報、そして広告主を結びつけます。AppleはiPhone利用者とアプリ開発者をApp Storeによって結びつけています。YouTubeでは視聴者、動画制作者、広告主が一つの場に集まります。

現代のデジタル経済では、自ら商品を生産するだけではなく、多数の主体を結びつけ、その活動を組織すること自体が巨大な経済価値を生むようになりました。

では、なぜプラットフォームはデジタル経済の中心的な組織形態になったのでしょうか。

1 プラットフォームとは「関係を組織する企業」である

「プラットフォーム」という言葉は、さまざまな意味で使われています。もともとplatformとは「基盤」や「土台」を意味します。

デジタル経済においては、単なるウェブサイトやアプリではなく、異なる利用者や企業を一つの場に集め、その関係を組織する仕組みとして考えると分かりやすいでしょう。

たとえば、Amazonのマーケットプレイスには、商品を買いたい消費者と商品を売りたい事業者が集まります。AppleのApp Storeには、アプリを利用したいiPhone利用者と、アプリを提供したい開発者が集まります。YouTubeには、動画を見たい視聴者、動画を提供するクリエイター、広告を掲載したい企業が集まります。

ここで重要なのは、プラットフォーム企業が、すべての商品やコンテンツを自ら生産しているわけではないことです。Apple自身がApp Storeに並ぶすべてのアプリを開発しているわけではありませんし、YouTube自身がすべての動画を制作しているわけでもありません。

従来型の製造企業を単純化すると、原材料 → 企業 → 製品 → 消費者という構造で考えることができます。自動車メーカーなら、鉄鋼や半導体などを調達し、自動車を生産して販売します。企業内部の生産活動が価値創出の中心です。

これに対してプラットフォームでは、

販売者 ↔ プラットフォーム ↔ 消費者

開発者 ↔ プラットフォーム ↔ 利用者

という関係が形成されます。

つまり、プラットフォーム企業が生み出す重要な価値の一つは、「誰と誰を結びつけるのか」を設計することにあります。

売りたい人と買いたい人を結びつける。情報を提供したい人と情報を探している人を結びつける。動画を制作する人と視聴したい人を結びつける。アプリを開発する企業と利用者を結びつける。

この意味で、プラットフォーム企業は単なる仲介業者ではありません。多様な主体を一つの場に集め、その関係や相互作用を組織することで価値を生み出す企業と捉えることができます。

デジタル経済では、価値は企業内部の生産活動だけから生まれるのではありません。企業の外部にいる多数の参加者を結びつけ、その相互作用を生み出すこと自体が価値創出の重要な源泉になっているのです。

2 プラットフォームは「市場そのもの」を組織する

プラットフォームの重要性を理解するには、「市場」という視点が重要です。

アプリの開発者と利用者が存在するだけでは、取引は簡単には成立しません。利用者は必要なアプリを探し、価格や機能、評価、安全性を比較する必要があります。開発者も利用者を探し、配布や決済、アップデートの仕組みを用意しなければなりません。こうした手間や費用が取引コストです。

AppleのApp Storeは、検索、推薦、レビュー、決済、配布、アップデートなどを一つの場所で提供し、この取引コストを低下させています。利用者は膨大なアプリから必要なものを探しやすくなり、開発者は自前の販売網や決済システムを持たなくても、多数の利用者にアプリを提供できます。

重要なのは、Appleが単に両者を結びつけているだけではないことです。アプリの掲載基準や決済方法など、市場に参加するための仕組みやルールも設計しています。

つまりプラットフォームとは、参加者を集めて取引を仲介するだけでなく、取引が行われる「市場そのもの」を組織する存在なのです。

プラットフォーム企業の特徴は、自ら市場に参加するだけでなく、市場の仕組みそのものを設計できることにあります。誰を参加させるのか、何を表示するのか、どのように決済するのかといったルールを決めることで、プラットフォームは市場の「運営者」としての役割を持つようになります。

3 なぜデジタル技術とプラットフォームは相性がよいのか

プラットフォームそのものは、デジタル時代に突然登場したわけではありません。

新聞は読者と広告主を結びつけてきました。ショッピングモールも多数の店舗と消費者を一つの場所に集めています。クレジットカードも利用者と加盟店を結びつけています。

それでは、なぜデジタル経済になって、プラットフォームがこれほど重要になったのでしょうか。

ここで、前記事のデータ・演算・ネットワークが重要になります。

第一に、ネットワークによって膨大な数の参加者を集めることができるようになりました。物理的なショッピングモールには空間的な限界があります。

しかしデジタル空間では、地理的に離れた多数の消費者や企業を同じプラットフォームへ参加させることができます。

※デジタル空間が地理的制約をどのように変えるのかについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

サイバー空間とは何か?誕生からAI・メタバース・安全保障までわかりやすく解説」

第二に、その活動をデータとして記録できるようになりました。

  • 誰が何を検索したのか。
  • どの商品を見たのか。
  • 何を購入したのか。
  • どの動画を見たのか。
  • 何を評価したのか。

こうした活動がデータとして蓄積されます。

第三に、膨大なデータを演算によって処理できるようになりました。

数百万の商品が存在する市場で、消費者がすべての商品を比較することはできません。

そこでアルゴリズムが検索、分類、推薦などを行い、膨大な選択肢の中から利用者に適した情報を提示します。

つまり、ネットワークによって「集める」、データによって「知る」、演算によって「結びつける」ことが可能になりました。

※「そもそもデジタルとは何か?」を知りたい方はこちら。
AI、クラウド、プラットフォーム経済を通して、現代のデジタル社会の仕組みをわかりやすく解説しています。
デジタルとは何か?AI・クラウド・プラットフォーム経済でわかる現代社会のしくみ

デジタル技術は、プラットフォームを単なる仲介の場から、数億人、場合によっては数十億人規模の経済活動を組織できる仕組みへと変えました。

4 「二面市場・多面市場」という特徴

プラットフォームを経済学的に理解するうえで重要なのが、二面市場や多面市場という考え方です。

通常の商品では、企業 → 消費者という関係を考えることができます。
しかし、プラットフォームには複数の異なる参加者が存在します。

  • Airbnbなら、宿泊者 ↔ ホスト(宿泊施設の提供者)
  • Uberなら、乗客 ↔ ドライバー
  • 楽天市場なら、消費者 ↔ 出店事業者
  • メルカリなら、購入者 ↔ 出品者

という双方向的な関係です。

ここで重要なのは2点あります。

1つ目は、プラットフォーム自身が宿泊施設やタクシーや商品などを提供するのではなく、異なる目的を持つ参加者を結びつけることで市場を形成していることです。

2つ目は、単に二種類の参加者がいることではありません。一方の参加者が増えることで、もう一方の参加者にとってプラットフォームの価値が高まることです。

図 プラットフォームの概念図

Airbnbで宿泊者が増えれば、ホストにとって宿泊施設を掲載する魅力が高まります。ホストが増えて宿泊先の選択肢が充実すれば、今度は宿泊者にとってAirbnbを利用する魅力が高まります。

楽天市場でも、利用する消費者が増えれば、事業者にとって出店する魅力が高まります。出店する事業者が増えて商品が充実すれば、消費者にとって楽天市場を利用する魅力も高まります。

このように、プラットフォームでは、一方の参加者が増えると、もう一方の参加者にとっての価値が高まり、それがさらに参加者を呼び込むという循環が生まれます。

すると、利用者が増える→ もう一方の参加者が増える→ サービスが充実する→ プラットフォームの価値が高まる→ さらに利用者が増えるという循環が生まれます。

図 プラットフォームの価値創造

プラットフォームでは、参加者同士が互いの価値を高め合います

この仕組みは、次回以降で説明する「自己強化」や「ネットワーク効果」へつながっていきます。

5 プラットフォームは「つなぐ」だけでなく「選ぶ」

参加者が少ないうちは、プラットフォームの役割は比較的単純です。売り手と買い手を結びつければよい。

しかし、参加者が増えると新しい問題が生まれます。選択肢が多すぎるのです。

  • Amazonには膨大な商品があります。
  • YouTubeには膨大な動画があります。
  • Google検索では、検索語に関連する大量のウェブページの中から情報を提示する必要があります。

この状況では、利用者にすべての選択肢をそのまま提示しても意味がありません。そこでプラットフォームが行うのが、検索、レコメンド、ランキング、マッチングです。

  • どの商品を上位に表示するのか。
  • どの動画を推薦するのか。
  • どのウェブページを検索結果の上位に置くのか。
  • どの広告を誰に表示するのか。

これらをアルゴリズムによって決定します。TikTokが多くの利用者を引きつける背景にも、利用者の関心に応じて次々と動画を提示するレコメンド・アルゴリズムがあります。

したがって、プラットフォームの役割は、「参加者をつなぐ」ことから、「膨大な選択肢の中から何を誰に見せるのかを選ぶ」ことへ広がります。

ここに、デジタル・プラットフォームの非常に重要な特徴があります。

プラットフォームは単に市場参加者を集める「場所」ではありません。

データと演算を使って、市場の中の情報や取引を継続的に編成する仕組みでもあります。

6 プラットフォームは「エコシステム」へ拡大する

プラットフォームが成長すると、一つのサービスだけで完結しなくなる場合があります。

Appleを考えてみましょう。

iPhoneという端末だけではありません。OS、App Store、クラウド、決済、音楽や動画などのサービスが相互に結びついています。

Googleも検索だけではなく、動画、地図、メール、クラウド、スマートフォンOSなど、多様なサービスを展開しています。

図 Googleのプラットフォームのエコシステム化

このように、複数の商品やサービス、開発者、利用者、企業などが一つの基盤を中心に結びついた仕組みをエコシステムと呼ぶことがあります。

エコシステムが形成されると、一つのサービスの利用が別のサービスの価値を高める可能性があります。利用者にとっては、サービス間の連携によって利便性が高まります。企業にとっては、一つのサービスで獲得した利用者を別のサービスへつなげることができます。

すると、競争は一つの商品と一つの商品との競争から、プラットフォーム対プラットフォームさらには、エコシステム対エコシステムへと変化していきます。これはデジタル企業が巨大化する重要な背景の一つになります。

7 プラットフォームがデジタル経済の中心になった理由

プラットフォームがデジタル経済の中心になったのは、単に便利なサービスを提供しているからではありません。デジタル技術を利用して多数の主体を結びつけ、その関係や取引を組織できるからです。

その仕組みは、次の5つに整理できます。

集める

ネットワークを通じて、世界中から多数の利用者や企業を集める。

② つなぐ

売り手と買い手、開発者と利用者、広告主と消費者など、異なる参加者を結びつける。

③ 取引を容易にする

検索、評価、決済などの仕組みを提供し、参加者の取引コストを下げる。

④ 選ぶ

蓄積されたデータを演算し、膨大な選択肢の中から適切な商品、情報、相手などを検索・推薦・マッチングする。

⑤ 広げる

複数の商品やサービスを相互に結びつけ、プラットフォームをエコシステムへと発展させる。

このように、プラットフォームは、「集める→つなぐ→取引を容易にする→選ぶ→広げる」ことで、多数の主体が参加する巨大な市場を組織します。

図 プラットフォームの拡大

つまりプラットフォームとは、データ・演算・ネットワークという技術的基盤を経済活動へと変換し、市場そのものを組織する代表的な組織形態なのです。

まとめーーデジタル経済を動かすプラットフォーム

プラットフォームとは、単に商品やサービスを提供する企業ではなく、多様な参加者を結びつけ、その関係や取引を組織する仕組みです。

デジタル技術の発展によって、世界中から多数の参加者を集め、その活動をデータとして記録し、演算によって検索・推薦・マッチングすることが可能になりました。その結果、プラットフォームは巨大な市場を効率的に組織できるようになりました。

つまり、プラットフォームとは、データ・演算・ネットワークという技術的基盤を経済活動へ変換し、「市場そのもの」を組織する存在なのです。

そして、参加者が増えるほどプラットフォームの価値が高まり、さらに参加者が集まる循環が生まれます。この「大きくなるほど、さらに大きくなりやすい」仕組みが、次の記事で考えるデジタル企業の自己強化と巨大化につながっていきます。

次記事では、低い限界費用、規模の経済、収穫逓増、正のフィードバックという観点から、「なぜデジタル企業は巨大化するのか――自己強化と収穫逓増のメカニズム」を考えていきます。

参考文献

ニック・スルニチェク(2022)『プラットフォーム資本主義』大橋完太郎、居村匠訳、人文書院

国領二郎(2011)『創発経営のプラットフォーム : 協働の情報基盤づくり』日本経済新聞出版社

アレックス・モザド, ニコラス・L・ジョンソン(2018)『プラットフォーム革命』藤原朝子訳、英治出版

スコット・ギャロウェイ(2021)『GAFA next stage』渡会圭子訳、東洋経済新報社

根来龍之『プラットフォームの教科書』日経BP

マイケル・クスマノ、アナベル・ガワ―、デイヴィッド・ヨッフィー(2020)『プラットフォームビジネス デジタル時代を支配する力と陥穽』有斐閣

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